第71回例会報告
日時:2002年3月23日(土) 13:20〜17:00
会場:愛知教育大学附属名古屋中学校
【内容】
第1部
2001年度卒業論文・修士論文発表会
日本音楽学会中部支部、日本音楽教育学会東海地区、合同例会
第2部
ワークショップ
Let's try 沖縄音楽−沖縄の心を音楽で−
【卒・修論研究発表】
八重山民謡における音階の研究
−ユンタ・ジラバ及び節歌をもとに−
沖縄民謡を含む日本民謡の音階には「テトラコルド理論」と「ペンタコルド理論」がある。また、沖縄音楽の研究者たちの間で長年に渡り、琉球音階と律音階のルーツと両者の関係について議論されてきた。研究者の説を大きく分けると「琉球音階の方が古くから存在していた」とする説と「律音階の方が古くから存在していた」とする説の2種類に分けられる。
八重山民謡に用いられる音階はテトラコルド理論とペンタコルド理論のいずれに当てはまるのか、また、八重山では琉球音階と律音階のいずれが古くから存在していたのか疑問に思い、本論文では、八重山民謡のうちユンタ・ジラバ,節歌を取り上げ、両者の音階を中心とした音楽的特徴を導き出し、さらに、歴史的背景及び民謡と八重山住民の生活との関わりを踏まえ分析・研究することにした。
本論文では、日本放送協会編集『日本民謡大観(沖縄・奄美)八重山諸島篇』に掲載されている楽譜を用い、分析・研究を進めた。
その結果、ユンタ・ジラバ、節歌は律音階・呂音階・琉球音階の3種類が用いられており、律音階及び律音階と琉球音階の混合形はテトラコルド(4度枠)の支配が強く、呂音階、純粋な琉球音階はペンタコルド(3度枠・5度枠)の支配が強いことがわかった。また、節歌よりも作曲された年代が古いとされるユンタ・ジラバでは、律系の音階が多く用いられており、それに対し節歌は琉球音階や、琉球音階と律音階の混合形が多く用いられていた。この分析結果から、八重山では律音階が古くから存在し、後に沖縄本島から輸入された三線と共に、次第に琉球音階が普及していったのではないかと推測することができ、「琉球音階より律音階の方が古くから存在していた」とする説が有力だと考えられる。
福井県大飯郡高浜町に伝わる7年祭の伝承と変化
福井県大飯郡高浜町に伝わる7年祭は、宮崎字宮内に鎮座する佐伎治神社の式年大祭である。巳の年と亥の年に、旧暦6月の卯の日から酉の日まで7日間に渡って行われてきたが、近年では高浜町が夏場海水浴で賑わうことから、混雑を避けるために新暦の6月に開催される。祭りの由来については諸説あるが、400年以上もの間脈々と受け継がれて来た歴史ある祭りであり、そこでは太刀振り、お田植え、神楽、曳山などの多彩な芸能が展開される。
それらの各芸能は、時代の変遷とともにさまざまに変化しながら今日に伝承されているが、今回の研究では具体的にどのように変化してきたのか、またその変化の理由について調べた。調査の結果、芸能の変化の背景には「少子化」の問題、さらに「若者の都市への流出」が大きく関与していることが明らかになった。長年、若い力によって支えられてきた7年祭であるが、若者の数が減少傾向を見せる現在、祭りの担い手は徐々に高齢化し、それに合わせて芸能の内容も変化せざるを得ない状況になっているようである。
今日、7年祭の運営は主に神主と町の長老、年配者たちによって支えられているが、この先祭りを末長く伝承していくためには、数少ない若者たちを引き付けるために祭り自体にいかに上手く新しい感覚を取り入れるか、またわずかな若いエネルギーをいかに有効に使うかにかかっているようである。一方、若者たちが、祭りにおける自分たちの役割の重要さを自覚することも大切であろう。
グリーグの歌曲における民族性
−ヴィニェの詩による歌曲を中心に−
本研究は、グリーグの歌曲の様式的特徴を、民族性の反映の観点から明らかにすることを目的とする。
グリーグの生きた時代は、ノルウェーが1905年に完全独立を果たすまでの、民族主義の動きが最も活発になった時代であった。文学史上でも、当時一般に話されていたデンマーク語系のノルウェー語リクスモールに対して、地方に残る古来のノルウェー語を収集し、体系化する動きが起こった。その体系化されたものをランスモールという。ヴィニェはランスモールで作品を書いた最も初期の作家である。グリーグはごく初期の歌曲作品ではドイツ語の詩を使ったが、その後デンマーク語、ノルウェー語リクスモールと移った後、ヴィニェのランスモールの詩に惹かれるようになる。
ヴィニェの詩による歌曲では、このようにテキスト選択に民族性が表れている一方で、音楽面にも民族性が認められる。それはノルウェーの民俗音楽の要素によるところが多い。特徴的なものとしては、1.短2度下行、2.長3度下行の旋律型(グリーグ・モチーフ)、3.教会旋法をはじめとする旋法的旋律、4.長旋法と短旋法の頻繁な交替、5.保続音(完全5度の連続的使用を含む)、6.民俗曲に由来するリズム・形式、がある。これらは様々に変形されて用いられている。またこれらの要素は、時に当時の新しい音楽語法を生み出している。例えば保続音は、本来の民俗音楽の場合のような付随的な性格を超えて、他声部と様々な音程を作る要素となっている。完全5度の保続音は複調的に用いられて11や13の和音を作ることもある。その他ある旋律的・リズム的パターンをそのまま繰り返すということや教会旋法等も、新しい音楽語法につながる例として挙げられる。このようなことから、ヴィニェの詩による歌曲はその歴史的意義を評価すべき作品であるといえる。
第71回例会は日本音楽教育学会東海地区と日本音楽学会中部支部との合同例会として行われ、6本の卒・修論研究発表と一つのワークショップが実現いたしました。研究発表にきましては、内容に従って教育学会と音楽学会とに分けて発表要旨を掲載することとなりました。以下3名の方の研究発表要旨に関しては、日本音楽教育学会の方で掲載されます。
【ワークショップ】
Let’s try 沖縄音楽 −沖縄の心を音楽で−
司会:村尾忠廣(愛知教育大学) 与那覇政浩率いる『鼓・翔舞会』は名古屋を拠点として活躍するプロの沖縄音楽演奏集団である。愛知教育大院生の一人が入門したことをきっかけに、最近では音楽教育界の出演要請にも積極的に応じている。今回、ワークショップという体験型プログラムで出演を依頼したのは、卒論・修論発表に集った若い研究者たちを中心に、沖縄音楽を楽しく学んでもらいたいと考えたからである。
プログラムはまず五丁太鼓による「かりゆし太鼓(与那覇氏の創作曲)」の力強い演奏で始まった。続いて唄三線による沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」「芭蕉布」「安里屋ユンタ」が披露された。