日本音楽学会中部支部 第127回定例研究会報告
日時:2019年(令和元年)12月21日(土) 13時30分~16時30分
場所:名古屋芸術大学東キャンパス1-701教室
司会:金子敦子(名古屋芸術大学)
内容:野村祐子氏(生田流箏曲家)、野村峰山氏(尺八演奏家)による講演と演奏
「箏と尺八~伝統と創造」
【傍聴記】
野村祐子先生、野村峰山先生による講演と演奏「箏と尺八~伝統と創造」傍聴記
第127回日本音楽学会中部支部定例研究会(2019年12月21日、名古屋芸術大学)では、箏曲家の野村祐子先生と、尺八演奏家の野村峰山先生をお招きし、
講演および演奏をしていただいた。野村祐子先生は、名古屋を拠点に活動する正絃社の二代家元であり、野村峰山先生は、都山流尺八演奏家として国内外で活躍されている。お二人とも、
現代の邦楽界をけん引する存在である。当日は、音楽学会の会員のほか、祐子先生が教鞭をとられている名古屋芸術大学や金城学院大学の在学生や卒業生らも大勢参加し、会場は賑わいをみせた。
研究会ではまず、2019年10月にNHK Eテレで放映された「にっぽんの芸能――野村正峰の世界」の映像の一部が流された。映像では、正絃社初代家元で祐子先生の父にあたる箏曲家の故・野村正峰先生の軌跡や、
正絃社の活動が紹介され、会場の参加者たちの関心を集めた。
その後の講演では、「箏と尺八~伝統と創造」というテーマに沿って、箏と尺八それぞれの歴史や手法、楽器の種類などについてレクチャーが行われた。祐子先生は、箏のさまざまな奏法や音階について、
持参された二面の箏を演奏しつつ、詳しく解説された。ふんだんに実演を交えた説明は、大変分かりやすく、説得力があった。また、峰山先生は、貴重な尺八コレクションを会場にお持ちくださり、
参加者一人一人に触らせてくださった。古代尺八のレプリカや、一節切、多孔尺八、オークラウロなど、珍しい楽器の数々を間近でみられるまたとない機会となり、参加者から喜びの声が上がった。
講演の合間には、さまざまな楽曲の演奏も行われた。八橋検校の「六段の調べ」や中尾都山による都山流本曲「慷月調」といった箏と尺八の代表曲のほか、愛知県ゆかりの音楽家・吉沢検校の「千鳥の歌」の合奏もあった。
祐子先生と峰山先生の、確固たる演奏テクニックと豊かな音楽表現に、ただただ圧倒された。後半には、宮城道雄の「春の海」や、山本邦山の「甲乙」、野村正峰の「紫の幻想」といった近現代の作品も演奏された。
これらの楽曲には、箏と尺八の新たな奏法や、洋楽の響きがふんだんに盛り込まれており、その演奏は、目にも耳にも新鮮であった。また、箏と尺八の合奏では、先生方の息の合ったアンサンブルを聴くことができた。
講演の終わりには、質疑応答の時間が設けられた。多くの参加者が手を挙げ、箏と尺八の音階および音色に関することや、歴史的なこと、邦楽の教育システムに関することまで、多岐にわたる質問が飛び交った。
これらの質問に対して、祐子先生と峰山先生は、それぞれの立場から、時には楽器を手にとりながら、丁寧に答えてくださった。こうして、3時間に及ぶ研究会は、先生方に対する参加者全員からの温かい拍手に包まれて、
盛況のうちに終了した。
総じて、今回の研究会は、日本を代表する邦楽家である野村祐子先生と野村峰山先生に、貴重なお話とともに演奏をたっぷり披露していただくという、大変ぜいたくな機会となった。また、参加者のなかに、
先生方のお話と演奏に熱心に耳を傾ける若者の姿が多く見受けられたのも印象的だった。休憩時間や、研究会終了後には、多くの学生が先生方のもとに集まり、目を輝かせながらあれこれ質問していた。
また、筆者が教鞭をとる金城学院大学から参加した学生は、「自分の知らない箏の奏法などもたくさん聴くことができてとても楽しい時間だった」「初めて尺八の演奏を聴けて大変興味深かった」
「さまざまな種類の尺八を実際に触らせていただけてとてもいい経験になった」「大学の授業よりもさらに詳細なお話が聞けてとても勉強になった」といった感想を寄せてくれた。こうした学生の反応は、
今回の講座が、大変充実したものであったことを伝える何よりの証拠だろう。
あらためて、素晴らしい講演と演奏をしてくださった野村祐子先生と野村峰山先生に、心より感謝の意を表したい。